「周防正行監督はなぜ『シコふんじゃった。』と『Shall we ダンス?』を創ったのか」開催レポート
立教大学スポーツウエルネス学部開設記念講演
2023/05/12
トピックス
OVERVIEW
2023年3月3日、スポーツウエルネス学部開設記念講演会<第1弾>として、映画監督の周防正行氏(1981年文学部卒業)を招いた講演会を開催。映画の中でスポーツをどのように伝えたのか、2つの映画作品に込めた思い、立教大学相撲部名誉監督としての活動などについて語っていただきました。司会はフリーアナウンサーの江口桃子氏(1999年法学部卒業)が務めました。
知らない世界を冒険する映画
周防 正行 氏
江口 映画『シコふんじゃった。』(1992年)が公開されて30年が経ちますが、改めてどういう映画なのか教えていただけますか?
周防 僕の映画は、ある状況に主人公が巻き込まれて、その中でどう対処していくかを描いたものが多いんです。『シコふんじゃった。』の前に撮った『ファンシイダンス』(1989年)という映画も、お寺を継ぐために修行に入り、いろいろな発見をするという内容です。『シコふんじゃった。』も、「俺が相撲?」というところから、主人公が相撲の世界でいろんな発見をしていく。「スポ根もの」と言われたらそうかもしれないですが、僕にとっては知らない世界を冒険する映画なんです。
江口 周防監督は相撲部出身ではなく、立教大学に相撲部があることすら知らなかったそうですが、なぜ大学相撲部をモチーフにしようと思われたのでしょうか?
周防 『ファンシイダンス』を撮った後、次も本木雅弘さんを主役に映画を作りたいと思っていたんです。どうすれば話題になるかと考えた時、本木さんを裸にするというアイデアが浮かびました。土俵に上がってもらえば裸にできると思い、当初は大相撲の世界を舞台にしようと考えました。しかし、大相撲となると体の大きい役者をそろえなくてはなりません。それも難しいので悩んでいた時、偶然、テレビで立教大学相撲部のドキュメンタリーを観たんです。「立教大学に相撲部があったんだ!」と驚いて、早速、立教大学相撲部が属していた一番下のリーグの試合を見に行くと、想像を絶する学生相撲の世界が広がっていました。僕と大して体格が変わらない、初めてまわしを締めたような学生同士が必死に相撲を取っている。想像したこともなかった相撲の面白さに魅力を感じて、「この世界なら作品にできる」と思い構想を練り始めました。
江口 それからどのようにしてストーリーを組み立てていったのですか?
周防 役者のオーディションをする時に、水着1枚になってもらったんです。そうして肉体的な特徴で役者を選び、キャラクターを作り上げていきました。役者は普段、どんな服を着るかというのがキャラクター作りの一つの要素となりますが、裸になると、役ではなく、自分自身のそれまでの生き方があらわになります。服で個性を作るのではなく、肉体そのものが個性になるというのが映画的で面白いと思いながら、ストーリーを作っていきました。だから、『シコふんじゃった。』は、役者の皆さんの体を見てもらうための映画なんです(笑)。
周防 僕の映画は、ある状況に主人公が巻き込まれて、その中でどう対処していくかを描いたものが多いんです。『シコふんじゃった。』の前に撮った『ファンシイダンス』(1989年)という映画も、お寺を継ぐために修行に入り、いろいろな発見をするという内容です。『シコふんじゃった。』も、「俺が相撲?」というところから、主人公が相撲の世界でいろんな発見をしていく。「スポ根もの」と言われたらそうかもしれないですが、僕にとっては知らない世界を冒険する映画なんです。
江口 周防監督は相撲部出身ではなく、立教大学に相撲部があることすら知らなかったそうですが、なぜ大学相撲部をモチーフにしようと思われたのでしょうか?
周防 『ファンシイダンス』を撮った後、次も本木雅弘さんを主役に映画を作りたいと思っていたんです。どうすれば話題になるかと考えた時、本木さんを裸にするというアイデアが浮かびました。土俵に上がってもらえば裸にできると思い、当初は大相撲の世界を舞台にしようと考えました。しかし、大相撲となると体の大きい役者をそろえなくてはなりません。それも難しいので悩んでいた時、偶然、テレビで立教大学相撲部のドキュメンタリーを観たんです。「立教大学に相撲部があったんだ!」と驚いて、早速、立教大学相撲部が属していた一番下のリーグの試合を見に行くと、想像を絶する学生相撲の世界が広がっていました。僕と大して体格が変わらない、初めてまわしを締めたような学生同士が必死に相撲を取っている。想像したこともなかった相撲の面白さに魅力を感じて、「この世界なら作品にできる」と思い構想を練り始めました。
江口 それからどのようにしてストーリーを組み立てていったのですか?
周防 役者のオーディションをする時に、水着1枚になってもらったんです。そうして肉体的な特徴で役者を選び、キャラクターを作り上げていきました。役者は普段、どんな服を着るかというのがキャラクター作りの一つの要素となりますが、裸になると、役ではなく、自分自身のそれまでの生き方があらわになります。服で個性を作るのではなく、肉体そのものが個性になるというのが映画的で面白いと思いながら、ストーリーを作っていきました。だから、『シコふんじゃった。』は、役者の皆さんの体を見てもらうための映画なんです(笑)。
「こんなに面白い世界はない」と思って作った
江口 桃子 氏
江口 『Shall we ダンス?』(1996年)はどのようなきっかけでできた映画なのでしょうか?
周防 ある日、電車に乗っていた時、主人公と同じように雑居ビルの窓に「社交ダンス見学自由」と書いてあるのを目にしたんです。会社員の男性が毎日の通勤の時にそれを見たら、踊ってみたいと思うかもしれないと考えて、興味を持って調べてみました。すると、アマチュアダンサーの憧れであるイギリスのブラックプールというところで開かれる世界大会に参加している人がたくさんいると知ったのです。ダンス教室の向こうにはこんな世界が広がっているんだと驚きました。そこで、ダンス教室という知らない世界に一歩足を踏み入れ、新しい歓びを得る冒険映画を創ることにしたんです。
周防 ある日、電車に乗っていた時、主人公と同じように雑居ビルの窓に「社交ダンス見学自由」と書いてあるのを目にしたんです。会社員の男性が毎日の通勤の時にそれを見たら、踊ってみたいと思うかもしれないと考えて、興味を持って調べてみました。すると、アマチュアダンサーの憧れであるイギリスのブラックプールというところで開かれる世界大会に参加している人がたくさんいると知ったのです。ダンス教室の向こうにはこんな世界が広がっているんだと驚きました。そこで、ダンス教室という知らない世界に一歩足を踏み入れ、新しい歓びを得る冒険映画を創ることにしたんです。
江口 今では周防監督の奥様でいらっしゃる草刈民代さんですが、当初から主演女優にすることを想定されていたのでしょうか?
周防 全くないですね。主役の岸川舞はやはりしっかりと踊れる人が演じないと駄目だし、非日常の世界の人であって欲しかったのでお茶の間でなじみのある女優でも困る。そのため、映画やテレビとはあまり縁がなくて踊れる人を探していたんです。そんな中、たまたま最初に会ったのがバレリーナの草刈民代さんで、会った瞬間にこの人でいこうと思いました。なぜかというと、草刈さんの半径5メートル以内に立ち入れないくらいの近寄り難さがあったからです。それこそが、サラリーマンが見上げる別世界そのものだと思ったんです。
江口 もう一人の主役を演じた役所広司さんはどのような経緯で起用されたのでしょうか?
周防 主役の杉山正平役がなかなか決まらずにいたある時、先輩監督から「役所さんはどうか」と提案されたんです。でも、僕の中ではかっこいいイメージが強く、頼りない役を演じられるのか不安がありました。しかし、オーディションの直前に同じエレベーターに偶然乗り合わせた時、まさに休日のサラリーマンのような雰囲気を感じたんです。それで、エレベーターに乗っている間に、「杉山役はこの人だ」と決めてしまいました。
江口 いろいろな出会いや偶然が重なりながら2つの作品が作られていったのですね。どちらの作品もたくさんの賞を受賞し、大きな話題になりましたが、ご自身ではそうした反響を想像されていましたか?
周防 『シコふんじゃった。』も『Shall we ダンス?』も、企画した時に「そんなの誰が観るんだ」と言われていましたから、ヒットしてほしかったけど、確信はなかったです。ただ、ヒットするかどうかは別として、「こんなに面白い世界はない」という気持ちで作っていたので最後まで頑張ることができました。
周防 全くないですね。主役の岸川舞はやはりしっかりと踊れる人が演じないと駄目だし、非日常の世界の人であって欲しかったのでお茶の間でなじみのある女優でも困る。そのため、映画やテレビとはあまり縁がなくて踊れる人を探していたんです。そんな中、たまたま最初に会ったのがバレリーナの草刈民代さんで、会った瞬間にこの人でいこうと思いました。なぜかというと、草刈さんの半径5メートル以内に立ち入れないくらいの近寄り難さがあったからです。それこそが、サラリーマンが見上げる別世界そのものだと思ったんです。
江口 もう一人の主役を演じた役所広司さんはどのような経緯で起用されたのでしょうか?
周防 主役の杉山正平役がなかなか決まらずにいたある時、先輩監督から「役所さんはどうか」と提案されたんです。でも、僕の中ではかっこいいイメージが強く、頼りない役を演じられるのか不安がありました。しかし、オーディションの直前に同じエレベーターに偶然乗り合わせた時、まさに休日のサラリーマンのような雰囲気を感じたんです。それで、エレベーターに乗っている間に、「杉山役はこの人だ」と決めてしまいました。
江口 いろいろな出会いや偶然が重なりながら2つの作品が作られていったのですね。どちらの作品もたくさんの賞を受賞し、大きな話題になりましたが、ご自身ではそうした反響を想像されていましたか?
周防 『シコふんじゃった。』も『Shall we ダンス?』も、企画した時に「そんなの誰が観るんだ」と言われていましたから、ヒットしてほしかったけど、確信はなかったです。ただ、ヒットするかどうかは別として、「こんなに面白い世界はない」という気持ちで作っていたので最後まで頑張ることができました。
形だけの名誉監督になるのは嫌だった
江口 周防監督は2018年に立教大学相撲部の名誉監督に就任されました。肩書きがあるだけでなく、全試合を観に行ったり、リクルーティングに携わったりしていると聞いて驚いたのですが、お引き受けされた理由を教えてください。
周防 『シコふんじゃった。』を企画した時、当時の相撲部監督で第42代学生横綱(1964年)だった堀口圭一さんにとてもお世話になったのですが、恩を返す前に亡くなられてしまって。その後、名誉監督の打診があった時には、恩返しのチャンスだと思ってお引き受けしました。ただ、形だけになるのは嫌だったんです。相撲部の監督なんて、僕にとっては未知の世界でしたから、自分が撮った映画のように楽しんで冒険しなきゃいけないと思って。探り探りですが、頑張って相撲部を盛り上げていきたいと思って活動しています。
江口 周防監督のような方に応援してもらえるのは学生もすごく嬉しいんじゃないでしょうか。
周防 立教大学相撲部は部員を集めるのも大変ですが、だからこそ得られることも必ずあるはずです。また、高校時代に経験がなくても始められるスポーツという点でも大きな存在意義があると思っています。必ずしも勝つことを重視しない面もありますので、本当の意味で相撲の楽しさを発見できるんじゃないか、という気持ちで応援しています。
周防 『シコふんじゃった。』を企画した時、当時の相撲部監督で第42代学生横綱(1964年)だった堀口圭一さんにとてもお世話になったのですが、恩を返す前に亡くなられてしまって。その後、名誉監督の打診があった時には、恩返しのチャンスだと思ってお引き受けしました。ただ、形だけになるのは嫌だったんです。相撲部の監督なんて、僕にとっては未知の世界でしたから、自分が撮った映画のように楽しんで冒険しなきゃいけないと思って。探り探りですが、頑張って相撲部を盛り上げていきたいと思って活動しています。
江口 周防監督のような方に応援してもらえるのは学生もすごく嬉しいんじゃないでしょうか。
周防 立教大学相撲部は部員を集めるのも大変ですが、だからこそ得られることも必ずあるはずです。また、高校時代に経験がなくても始められるスポーツという点でも大きな存在意義があると思っています。必ずしも勝つことを重視しない面もありますので、本当の意味で相撲の楽しさを発見できるんじゃないか、という気持ちで応援しています。
一歩を踏み出す勇気を大切にしてほしい
江口 立教大学に新しくスポーツウエルネス学部ができますが、周防監督の考え方には、「すべての人が生きる歓びのために」という学部の理念と通じるものがあるように感じます。
周防 日本のスポーツは学校体育が中心で、思えば体育の授業って評価されるんですよね。鉄棒の逆上がりができる、できない、というように。そういう問題じゃないだろうと感じます。スポーツウエルネス学部を通して、体を動かすことの本質的な歓びみたいなものが認められるような仕組みができるといいなと思っています。僕は運動が得意な方でしたが、大学の体育会は特別な才能を持った人たちがやるものだと思って、高校まででやめてしまいました。でも30歳を過ぎて、テニスやスキーを始めてみたらとても楽しかった。純粋な意味で体を動かす歓びを知るチャンスって、実はそう多くないのかもしれません。
江口 周防監督がスポーツウエルネス学部で学ぶとしたら、どのような研究をしたいですか?
周防 相撲の四股って本当に面白い下半身のトレーニングなんです。単純な動きだけど、足のつき方やバランスの取り方など奥が深いと感じます。四股が体にどのような影響を与えるか学術的に証明できると嬉しいですね。そしてスポーツが特別な人達のためだけでなく、子供から高齢者まで、それぞれの環境に応じて楽しめるものにするにはどうしたらいいか、勉強したいです。
江口 最後に、学部の理念のように、すべての人が歓んで生きるためには、何が大切だと思われますか?
周防 いろいろなことをたくさん経験しても、実はまだまだ知らないことの方が多いと感じるのが年を取ることなのだと実感しています。ですから、少しでも自分の中に何か興味が芽生えたら、そっちにちょっと足を踏み出してみればといいと思います。そうすると、思わぬ世界が広がるかもしれない。広がらなくても別にいいじゃないですか。踏み出さないまま知らずにいるより、踏み出してみて「こんなもんだったんだな」と思えた方がいい。一歩を踏み出す勇気を大切にしてほしいと思います。
周防 日本のスポーツは学校体育が中心で、思えば体育の授業って評価されるんですよね。鉄棒の逆上がりができる、できない、というように。そういう問題じゃないだろうと感じます。スポーツウエルネス学部を通して、体を動かすことの本質的な歓びみたいなものが認められるような仕組みができるといいなと思っています。僕は運動が得意な方でしたが、大学の体育会は特別な才能を持った人たちがやるものだと思って、高校まででやめてしまいました。でも30歳を過ぎて、テニスやスキーを始めてみたらとても楽しかった。純粋な意味で体を動かす歓びを知るチャンスって、実はそう多くないのかもしれません。
江口 周防監督がスポーツウエルネス学部で学ぶとしたら、どのような研究をしたいですか?
周防 相撲の四股って本当に面白い下半身のトレーニングなんです。単純な動きだけど、足のつき方やバランスの取り方など奥が深いと感じます。四股が体にどのような影響を与えるか学術的に証明できると嬉しいですね。そしてスポーツが特別な人達のためだけでなく、子供から高齢者まで、それぞれの環境に応じて楽しめるものにするにはどうしたらいいか、勉強したいです。
江口 最後に、学部の理念のように、すべての人が歓んで生きるためには、何が大切だと思われますか?
周防 いろいろなことをたくさん経験しても、実はまだまだ知らないことの方が多いと感じるのが年を取ることなのだと実感しています。ですから、少しでも自分の中に何か興味が芽生えたら、そっちにちょっと足を踏み出してみればといいと思います。そうすると、思わぬ世界が広がるかもしれない。広がらなくても別にいいじゃないですか。踏み出さないまま知らずにいるより、踏み出してみて「こんなもんだったんだな」と思えた方がいい。一歩を踏み出す勇気を大切にしてほしいと思います。
全員で四股を踏む。左から、江口 桃子 氏、周防 正行 氏、立教大学体育会相撲部 山崎 稜介 主将(法学部3年次)
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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周防 正行 氏