共生社会研究センター5周年──立教に根差したアーカイブズを目指して
共生社会研究センター
2016/03/17
研究活動と教授陣
OVERVIEW
2010年4月に開設された共生社会研究センター(以下、センター)は、国内外の多種多様な市民活動の記録を収集?保管?公開するアーカイブズ(文書館)です。センター創設の目的は「国内外における多様な市民の社会活動に関する資料を収集整理、保存、公開し、それに基づく実証研究を通じて、持続可能な共生社会の実現に資すること」(センター規則第2条)としています。開設5周年を迎えたセンターをご紹介します。
センター開設の経緯
故?高畠通敏本学名誉教授が事務局を務めた ミニコミ『声なき声』
センターは、埼玉大学共生社会教育研究センター所蔵の市民活動に関する膨大な資料の移管を受けて発足しました。
埼玉大学が所蔵していた資料群のひとつは、1976年に丸山尚氏を中心に設立された住民図書館が25年にわたって収集していた膨大な数のミニコミ(市民活動団体や個人が継続的に発行する刊行物。チラシ状のもの、雑誌、新聞など形態は多様)です。これに加えて、1960年代、70年代を中心とした市民の多様な活動の資料も収蔵していました。その中には日本の市民活動の嚆矢(こうし)となった「べ平連」資料、練馬区の市民活動を網羅した「練馬母親連絡会」資料、日本で初めて原子力発電所の設置取り消しを求めた「伊方原発訴訟」資料などがあります。また、国内外の公害?環境問題に取り組んだ宇井純氏の研究資料、東南アジアを丹念に歩いた鶴見良行氏の研究資料なども所蔵されていました。さらには、幅広い海外とのネットワークを持つNGOである、アジア太平洋資料センター(PARC)が所蔵していた海外の市民活動に関わる資料も貴重な資料群です。
これらの資料を全て引き継いだセンターは、現在もミニコミの収集を続けています。PARCからの資料の受け入れも続けているほか、1960?70年代のものを中心とした市民活動資料についても、限られた収蔵スペースを勘案しながら受け入れています。所蔵資料は2015年5月時点で約35万点を数えています。
センター開設時に使っていた施設は、ミッチェル館西棟という小さな建物でした。書庫も閲覧スペースも非常に狭かったことから、公開できない状態になっていた資料が数多くありました。しかし、2015年4月にメーザーライブラリー記念館中2階へ待望の移転を果たし、所蔵する資料の全面公開が可能となりました。開梱?整理が終了した資料から順次公開を進めています。
埼玉大学が所蔵していた資料群のひとつは、1976年に丸山尚氏を中心に設立された住民図書館が25年にわたって収集していた膨大な数のミニコミ(市民活動団体や個人が継続的に発行する刊行物。チラシ状のもの、雑誌、新聞など形態は多様)です。これに加えて、1960年代、70年代を中心とした市民の多様な活動の資料も収蔵していました。その中には日本の市民活動の嚆矢(こうし)となった「べ平連」資料、練馬区の市民活動を網羅した「練馬母親連絡会」資料、日本で初めて原子力発電所の設置取り消しを求めた「伊方原発訴訟」資料などがあります。また、国内外の公害?環境問題に取り組んだ宇井純氏の研究資料、東南アジアを丹念に歩いた鶴見良行氏の研究資料なども所蔵されていました。さらには、幅広い海外とのネットワークを持つNGOである、アジア太平洋資料センター(PARC)が所蔵していた海外の市民活動に関わる資料も貴重な資料群です。
これらの資料を全て引き継いだセンターは、現在もミニコミの収集を続けています。PARCからの資料の受け入れも続けているほか、1960?70年代のものを中心とした市民活動資料についても、限られた収蔵スペースを勘案しながら受け入れています。所蔵資料は2015年5月時点で約35万点を数えています。
センター開設時に使っていた施設は、ミッチェル館西棟という小さな建物でした。書庫も閲覧スペースも非常に狭かったことから、公開できない状態になっていた資料が数多くありました。しかし、2015年4月にメーザーライブラリー記念館中2階へ待望の移転を果たし、所蔵する資料の全面公開が可能となりました。開梱?整理が終了した資料から順次公開を進めています。
センターの活動
センターの書庫
これまでセンターは、主に学術的研究に利用されてきました。所蔵資料に対する研究者の関心は非常に高く、これまでに国内外の数多くの研究者が利用しています。そして、所蔵資料を利用した博士論文?修士論文?卒業論文などが生み出されています。その中からは、友澤悠季氏の著書『「問い」としての公害─環境社会学者?飯島伸子の思索』(勁草書房、2014年。立教大学出版助成)が、藤田賞という権威ある学術賞を受賞するといううれしい出来事もありました。
その一方、センターは教育の一端も担っています。学生の研究や論文執筆のサポートを随時行っているほか、全学共通カリキュラムにおいて2012?13年度には「ネット時代における『ミニコミ』の可能性」を、また2014?15年度には「市民による知識創造の可能性」(いずれも主題別B科目)を開講し、毎年250名以上の受講生を集めています。
さらにセンターは、積極的な情報発信にも取り組んでいます。年に1~2回程度、シンポジウムや公開講演会を開催し、市民活動に関わる情報の発信をしているほか、複数の出版社の論文集や復刻資料集の企画に協力して、資料や情報を提供しています。また、マスメディアへの情報提供も積極的に行っており、NHKのドキュメンタリー番組でセンターの風景が使われたこともありました。
その一方、センターは教育の一端も担っています。学生の研究や論文執筆のサポートを随時行っているほか、全学共通カリキュラムにおいて2012?13年度には「ネット時代における『ミニコミ』の可能性」を、また2014?15年度には「市民による知識創造の可能性」(いずれも主題別B科目)を開講し、毎年250名以上の受講生を集めています。
さらにセンターは、積極的な情報発信にも取り組んでいます。年に1~2回程度、シンポジウムや公開講演会を開催し、市民活動に関わる情報の発信をしているほか、複数の出版社の論文集や復刻資料集の企画に協力して、資料や情報を提供しています。また、マスメディアへの情報提供も積極的に行っており、NHKのドキュメンタリー番組でセンターの風景が使われたこともありました。
立教大学の中のセンターであること
こうしたセンターの資料群は、一見すればどの大学?研究機関でも、条件が整えば所蔵可能なものと考えられがちです。しかし、資料を眺め5年間の活動を振り返るとき、このアーカイブズが立教大学に設置されたことに深い感慨を覚えずにはいられません。
私はセンター発足1年が経とうとしていた時点で、センター発行のニューズレター『PRISM』に次のように記しました。ミニコミが生み出された様々な市民の活動には、少なからず立教大学の関係者が関わっています。「声なき声の会」の中心メンバーだった高畠通敏先生、水俣の活動に深くコミットしてきた栗原彬先生、この他にも意外なほど、ミニコミや市民活動記録のなかに本学の関係者の名前が登場します。そして住民図書館設立には門奈直樹先生が深く関わっていらっしゃいました。
これらの先生方の活動は大学として組織的になされたものではありません。しかし本学に集った研究者には「市民」のなかに分け入り、多様な活動に取り組んでいた人が少なからず存在します。その記録が時を経て、大学として引き継いだ資料のなかに見出せるのです。いわば個々の研究者が行ってきた市民との協働が、立教大学の伝統のなかに改めて位置づけられたとみることができるでしょう。そしてこの潮流は現在も引き継がれており、多くの関係者が市民との協働に取り組んでいます。ミニコミや市民活動記録を引き継ぐ際にこのことを自覚していたわけではありませんが、この繋がりに気付いたとき、改めて立教大学がミニコミや活動記録の拠点となることの意味と意義の大きさを考えずにはいられません。(高木恒一、2011年、「歩みはじめた立教大学共生社会研究センター ──時を繋ぐ、人を繋ぐ──」『PRISM』1号)
この文章を書いてから約4年が経過しましたが、この間も立教に連なる人々の活動は活発です。その一例として今年(2015年)の夏に展開された安全保障関連法案に対する運動が挙げられるでしょう。この法案に対して、全国各地の大学人が反対を表明し、各大学で有志の会が結成されて運動が広がりました。立教大学に関わる人々の有志もまた7月に「安全保障関連法案に反対する立教人の会」を結成して反対声明を出し、他大学有志との共同行動に参加するなどしています。同会が運営するWebサイトには10月15日現在で1300名を超える賛同署名(呼びかけ人含む)が寄せられており、合わせてコメントも掲載されています。(http://rikkyo9.wix.com/home、2015年10月15日閲覧)。このコメントの中には「自由の学府で学んだものとして」「立教の卒業生として」というような表現を多数見ることができます。これは、立教大学で学んだことを起点として社会の問題と向き合っていることを示しています。また、先に触れた高畠通敏先生のほか、神島二郎先生や渡辺憲司先生といった方々から学んだことに触れるコメントも見られます。
安全保障法案に対する反対運動は立教学院や立教大学が行っているものではありません。また、Webサイトに寄せられた意見?コメントは立教に連なる人々の持つ多様な意見のごく一部でしょう。しかしここには、立教での経験を拠り所として社会に向き合い、市民として行動する人々の層の厚さが示されているように思います。こうした方々のつくってきた立教の伝統と知的雰囲気の中にあることが、センターを特徴づけているのです。
これからのセンターは、研究支援?教育の場であることはもちろんですが、立教に連なる人々も含む、広く市民に開かれた場にしていきたいと考えています。研究者?学生?社会に向き合い活動する市民が蓄積された資料を契機として集い、多様な意見を交換し、来るべき社会を構想する──そんな場にしていくことを目指しています。
共生社会研究センター長 高木 恒一
私はセンター発足1年が経とうとしていた時点で、センター発行のニューズレター『PRISM』に次のように記しました。ミニコミが生み出された様々な市民の活動には、少なからず立教大学の関係者が関わっています。「声なき声の会」の中心メンバーだった高畠通敏先生、水俣の活動に深くコミットしてきた栗原彬先生、この他にも意外なほど、ミニコミや市民活動記録のなかに本学の関係者の名前が登場します。そして住民図書館設立には門奈直樹先生が深く関わっていらっしゃいました。
これらの先生方の活動は大学として組織的になされたものではありません。しかし本学に集った研究者には「市民」のなかに分け入り、多様な活動に取り組んでいた人が少なからず存在します。その記録が時を経て、大学として引き継いだ資料のなかに見出せるのです。いわば個々の研究者が行ってきた市民との協働が、立教大学の伝統のなかに改めて位置づけられたとみることができるでしょう。そしてこの潮流は現在も引き継がれており、多くの関係者が市民との協働に取り組んでいます。ミニコミや市民活動記録を引き継ぐ際にこのことを自覚していたわけではありませんが、この繋がりに気付いたとき、改めて立教大学がミニコミや活動記録の拠点となることの意味と意義の大きさを考えずにはいられません。(高木恒一、2011年、「歩みはじめた立教大学共生社会研究センター ──時を繋ぐ、人を繋ぐ──」『PRISM』1号)
この文章を書いてから約4年が経過しましたが、この間も立教に連なる人々の活動は活発です。その一例として今年(2015年)の夏に展開された安全保障関連法案に対する運動が挙げられるでしょう。この法案に対して、全国各地の大学人が反対を表明し、各大学で有志の会が結成されて運動が広がりました。立教大学に関わる人々の有志もまた7月に「安全保障関連法案に反対する立教人の会」を結成して反対声明を出し、他大学有志との共同行動に参加するなどしています。同会が運営するWebサイトには10月15日現在で1300名を超える賛同署名(呼びかけ人含む)が寄せられており、合わせてコメントも掲載されています。(http://rikkyo9.wix.com/home、2015年10月15日閲覧)。このコメントの中には「自由の学府で学んだものとして」「立教の卒業生として」というような表現を多数見ることができます。これは、立教大学で学んだことを起点として社会の問題と向き合っていることを示しています。また、先に触れた高畠通敏先生のほか、神島二郎先生や渡辺憲司先生といった方々から学んだことに触れるコメントも見られます。
安全保障法案に対する反対運動は立教学院や立教大学が行っているものではありません。また、Webサイトに寄せられた意見?コメントは立教に連なる人々の持つ多様な意見のごく一部でしょう。しかしここには、立教での経験を拠り所として社会に向き合い、市民として行動する人々の層の厚さが示されているように思います。こうした方々のつくってきた立教の伝統と知的雰囲気の中にあることが、センターを特徴づけているのです。
これからのセンターは、研究支援?教育の場であることはもちろんですが、立教に連なる人々も含む、広く市民に開かれた場にしていきたいと考えています。研究者?学生?社会に向き合い活動する市民が蓄積された資料を契機として集い、多様な意見を交換し、来るべき社会を構想する──そんな場にしていくことを目指しています。
共生社会研究センター長 高木 恒一
※本記事は季刊「立教」235号 (2015年12月発行)をもとに再構成したものです。定期購読のお申し込みはこちら
CATEGORY
このカテゴリの他の記事を見る
研究活動と教授陣
2024/12/20
今の努力が、新たな知の扉を開く——立教大学×高志高等学校
立教大学特別授業
プロフィール
PROFILE
立教大学共生社会研究センター
【センター長】高木 恒一(社会学部教授)
【住所】〒171─8501 東京都豊島区西池袋3-34-1 メーザーライブラリー記念館中2階
【開館時間】月~金曜日(祝日をのぞく)10:00~12:00/13:00~16:00
■利用予約?平博电竞_平博电子竞技官网-app|下载先
【TEL】03-3985-4457/FAX:03-3985-4458
【E-mail】kyousei@rikkyo.ac.jp
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。