働く人たちのうつ病には、どんな解決策が必要ですか?

現代心理学部心理学科 臨床心理学、健康心理学 松永美希 准教授

2018/05/14

研究活動と教授陣

OVERVIEW

うつ病患者の中でも対象を休職者に絞り、認知行動療法という心理療法を応用して、休職中のストレスへの対応や復職に至るまでの支援のプログラムを作成する現代心理学部の松永美希准教授の研究をご紹介します。

松永 美希 准教授

「文部科学省私立大学研究ブランディング事業のプロジェクトでは、うつ病患者の中でも対象を休職者に絞り、認知行動療法という心理療法を応用して、休職中のストレスへの対応や復職に至るまでの支援のプログラムを作成することを目指しています」

「臨床心理学」の研究者で臨床心理士でもある松永先生の研究は、休職中のうつ病患者と実際に会い、回復をサポートするという実践的なものだ。

「前々から取り組んでいた研究テーマでしたが、ちょうど試行的にうつ病休職者に対する認知行動療法を始め、効果研究も行おうとしていたタイミングで、この事業に声をかけていただきました。心理学では、例えばアンケートなどの結果に回答者の主観や思惑が作用することがどうしてもありますが、体の内分泌系や免疫学的な分析にはそういったことはありません。研究において客観的指標を得られることは大事ですから、理学部との連携は心強いです」

現在、うつ病患者数(躁うつ病を含む)は年間100万人を超えるとも言われる。社会的な経済損失は2兆円、うつ病休職者による経済損失は8000億円という見積もりも。

「働き盛りのうつ病は社会全体の大きな問題です。この研究では、休職に至るまでの職場におけるストレスの分析、休職中に感じるうしろめたさ、復職の不安への対応など、さまざまな過程のストレスを視野に入れています」

学生と作成したワークシート(左)。海外の学会で見つけた感情表現のボードゲーム(右)。

同じ悩みを共有する人が話し合う形での 認知行動療法。その効果を実感しています。

研究と実践との両輪で、社会的な課題に貢献するプロジェクトを進める。

現在は、リワーク施設といううつ病休職者が復職を目指して通う病院内施設で、集団形式の認知行動療法を定期的に実施している。参加者のフィードバックを得て、どんな内容が妥当か、支援プログラムの中身を練っている段階だ。

「認知行動療法は、物の見方が現実と大きく食い違っていないか、違う考え方ができないか、適切な行動や振る舞いはどういうものか、“認知”“行動”の両面からカウンセリングで話し合っていく心理療法です。もともとは1対1の心理面接ですが、この研究では7、8人のグループで行います。グループ形式にすることで『自分一人が悩んでいるわけではないのだ』と安心感を持つことができたり,『他の人もそう考える癖があるんだ』と自分の考え方の癖を受け入れやすくなる傾向があります。違う考え方の人に『なぜそう考えるの?』と質問して、話が盛り上がることも。現時点では経験的な感想ですが、同じ悩みを共有する複数の人たちで話し合うほうが、参加者の理解は進み、自覚もしやすいようです」

うつ病とストレスの研究の中で、 理学的な側面での新たな知見に期待します。

うつ病患者へ集団形式での認知行動療法を始めたのは、遡ること10数年前。臨床心理士として大学病院の精神科の医師や研究者たちと相談する中でスタートさせた。

「うつ病の研究はさまざまなレベルで進んでいます。原因にもいろいろな仮説があり、遺伝的なもの以外に、ストレスを受けることで脳の神経伝達物資の機能が低下するという指摘もあります。私自身も臨床で多くの人と接する中で、過酷な労働環境など、本人のキャパシティを超えたストレスが発病の原因ではないかと思うことがあります。研究プロジェクトは今後、理学部の協力を得て、集団形式での認知行動療法の効果を生理学、生物学的指標を取って検証する段階に入りますので、理学的な側面からわかることも多いのではと期待しています」

大学や大学院の卒業生たち、共に働いた病院の医師たちの寄せ書きが、研究の励みに。

過度な負荷をかけず、健康的に働ける。 そんな方法を見つける場を広げたいです。

「同じ年齢の友達同士が同じ状況を見ているのに、なぜ捉え方が違うんだろう」という子どもの頃の素朴な疑問が、心理学への興味の出発点だったと言う。

「休職中のうつ病患者には、知的で優秀で社会性が高い人が急に発病したケースが目立つんですね。そのため、人への接し方など私たちが教わることも多いです。」

認知行動療法を取り入れる企業や、カウンセラーを派遣する外部機関を活用する企業など、働く人のメンタルヘルス支援は社会へ普及しつつある。

「休職中のうつ病患者の人たちが健康的に働く方法を見つける場を作っていくために、支援プログラムを確立させ、ほかのリワーク施設や企業にも紹介し、実践を広げたいですね。教育者としては、産業場面における心理職の育成も課題です。そのため、学生にも集団認知行動療法の運営を協力してもらうなど、大学での教育にも関与しながらプロジェクトを進めています」

プロフィール

Profile

松永 美希

現代心理学部心理学科准教授

早稲田大学人間科学部、同大学院人間科学系研究科にて認知行動療法を学ぶ。修士課程修了後、臨床心理士の資格を取得し、広島県公立中学校にてスクールカウンセラーおよび教育相談を担当。2003年より広島大学病院精神科においてうつ病に対する集団認知行動療法を精神科医と共に開始。そこでの臨床研究を論文にまとめ、2010年に広島大学大学院医歯薬学総合研究科博士課程を修了し、博士(医学)の学位を取得。吉備国際大学助教、比治山大学専任講師を経て、2013年4月より立教大学現代心理学部心理学科准教授に。

CATEGORY

このカテゴリの他の記事を見る

研究活動と教授陣

2024/12/20

今の努力が、新たな知の扉を開く——立教大学×高志高等学校

立教大学特別授業

お使いのブラウザ「Internet Explorer」は閲覧推奨環境ではありません。
ウェブサイトが正しく表示されない、動作しない等の現象が起こる場合がありますのであらかじめご了承ください。
ChromeまたはEdgeブラウザのご利用をおすすめいたします。