豊かな創造性で科学の本質に迫る、立教の理学教育?研究
立教大学
2017/03/16
研究活動と教授陣
OVERVIEW
立教大学で唯一の理系学部である理学部。
数学科、物理学科、化学科、生命理学科の4学科を有し、それぞれが、特色ある教育?研究を進めています。立教大学理学部の教育?研究内容をご紹介します。
全ての数は、自然数?整数?有理数?実数?複素数に分類することができる。それらの世界がつながっていることを半球5つで表現している。「サイエンスコミュニケーション実践」で制作した授業作品
新しい文化と創造性を育む
理学部長 理学部物理学科教授 北本 俊二
日本の多くの大学は理系の学部として「理工学部」を持っていますが、立教大学理学部は、工学を含まない単独の「理学部」として歩んできました。
工学という学問が社会に直接的に役に立つ研究を主眼としているのに対して、理学は、物事や現象の根本にある理屈や原因、つまり「原理」を探ろうとする学問。そのため、社会の問題解決とは距離があるように思われがちです。
社会に必要とされるものを開発する研究が非常に重要であることは言うまでもありません。しかし、「課題を解決するための研究」はすでに頭で分かっているものを現実化することがゴールですから、それ以上のものはなかなか生まれにくい。一方、それまでに分かっていたことの延長上には存在しない「ブレークスルー」や、文明を飛躍的に前進させる「発明」は、理学が生み出してきました。
例えば、現代社会に欠かせない半導体素子は、コンピュータの開発とは一見関係のない、量子力学という理学分野の学問が発展を支えてきました。宇宙の研究は社会の課題解決には役立たないように見えますが、核融合の研究は、恒星の研究と密接に関係しています。今の社会は、すぐに役に立つかどうかは分からない、いわば学問的な研究と、目の前の課題解決を目指した実用的な研究とが手を携えて実現してきたものなのです。
日本の多くの大学は理系の学部として「理工学部」を持っていますが、立教大学理学部は、工学を含まない単独の「理学部」として歩んできました。
工学という学問が社会に直接的に役に立つ研究を主眼としているのに対して、理学は、物事や現象の根本にある理屈や原因、つまり「原理」を探ろうとする学問。そのため、社会の問題解決とは距離があるように思われがちです。
社会に必要とされるものを開発する研究が非常に重要であることは言うまでもありません。しかし、「課題を解決するための研究」はすでに頭で分かっているものを現実化することがゴールですから、それ以上のものはなかなか生まれにくい。一方、それまでに分かっていたことの延長上には存在しない「ブレークスルー」や、文明を飛躍的に前進させる「発明」は、理学が生み出してきました。
例えば、現代社会に欠かせない半導体素子は、コンピュータの開発とは一見関係のない、量子力学という理学分野の学問が発展を支えてきました。宇宙の研究は社会の課題解決には役立たないように見えますが、核融合の研究は、恒星の研究と密接に関係しています。今の社会は、すぐに役に立つかどうかは分からない、いわば学問的な研究と、目の前の課題解決を目指した実用的な研究とが手を携えて実現してきたものなのです。
文明にも文化にも 貢献する「理学」
理学とは「文明だけでなく文化にも貢献する学問だ」と言った人がいます。文化とは、モノの豊かさではなく心の豊かさを実現するもの。疑問を追究し、解明し、人々に「分かった!」という喜びや新たな洞察を提供することができる理学は、文学や芸術と同様、人間の本当の幸せに貢献する学問だと言っていいでしょう。立教大学の理学部は、このような役割も果たしている場所だと思います。
学生も最先端の研究を大きなフィールドで
理学部4学科には各分野の第一人者が集まり、最先端の研究を行っています。JAXA(宇宙航空研究開発機構)や産業総合研究所といった日本を代表する研究所との共同研究も多く、学生は、一大学だけではできないような大きな研究プロジェクトに関わりながら最先端を知ることができます。
そして理学の世界では、表面的な現象にとらわれずに物事の本質を見極め、論理的に考えを組立て、説明する能力が必須となります。理学部では学生にそうした能力をぜひ身に付けてもらいたいと考えています。卒業後に理系の仕事に就かなかったとしても、この能力は、どの分野でも役に立つ力ですから。
そして理学の世界では、表面的な現象にとらわれずに物事の本質を見極め、論理的に考えを組立て、説明する能力が必須となります。理学部では学生にそうした能力をぜひ身に付けてもらいたいと考えています。卒業後に理系の仕事に就かなかったとしても、この能力は、どの分野でも役に立つ力ですから。
子どもたちが持っている理学的な好奇心を伸ばす
理学部では、2006年から「共通教育科目」として、大学で学ぶ意義をキャリアの視点から考える「理学とキャリア」や、小中学校での理数科目の教材を開発する「理数教育企画」などの科目を設置しています(下記参照)。子どもはたいてい、「これが何の役に立つのか」などとは考えず、純粋に宇宙や化学反応、動物の不思議に興味を抱いています。そうした理学的な好奇心をそのまま伸ばしたい。大学の理学部ならではの支援ができれば、と活動を続けています。
理学部だからこそできることがある一方、「理学」の真価が問われます。私たちは教育や研究を通じて、それに応えられる存在でありたいと思っています。
理学部だからこそできることがある一方、「理学」の真価が問われます。私たちは教育や研究を通じて、それに応えられる存在でありたいと思っています。
理学の応用力?実践力を身に付ける
【共通教育科目】
社会との関わりや歴史という視点から科学を理解するために設置された「共通教育科目」。中でもScience with Active Learning(SALプロジェクト)は、他大学や本学経営学部との共同授業などを通して、段階的にスキルを身に付け、社会での実践力を育てています。
社会との関わりや歴史という視点から科学を理解するために設置された「共通教育科目」。中でもScience with Active Learning(SALプロジェクト)は、他大学や本学経営学部との共同授業などを通して、段階的にスキルを身に付け、社会での実践力を育てています。
- 共通教育科目一覧
数学史/科学史/科学の倫理/知的財産権概論/地学概説/地学総合実験 - Science with Active Learning(SAL)
理学とキャリア(SAL1)/サイエンスコミュニケーション入門(SAL2)/理数教育企画(SAL3A)/サイエンスコミュニケーション実践(SAL3B)/理学とビジネスリーダーシップ(BL4) - ゼミナール
共通教育ゼミナール1 /共通教育ゼミナール2
立教大学理学部 N E W S & T O P I C S
立教大学と理学部のWebサイトに掲載したNEWS?TOPICSから主なものをご紹介します。
- 2017年1月 物理学科の福原哲哉助教と田口真教授が所属する観測?解析チームは、金星探査機「あかつき」に搭載された中間赤外カメラ(LIR)により、金星の雲頂に南北約10,000kmにおよぶ弓状の模様が出現することを発見しました。
- 2016年11月 立教大学(生命科学グループ、心理学グループ)の『インクルーシブ?アカデミクス─生き物とこころの「健やかさと多様性」に関する包摂的研究』が、文部科学省の平成28年度「私立大学研究ブランディング事業」に選定されました。
- 2016年10月 生命理学科の木下勉教授が参画した国際コンソーシアムによる論文が英国科学誌Nature』に掲載されました。
- 2016年10月 先端科学計測研究センターの武井大研究員のグループが、結晶歪みを利用したX線導波管の開発に成功しました。
- 2016年8月 物理学科の横山修一郎助教と東京大学、京都大学が共同で行った重力波に関する理論的研究の結果がアメリカ物理学会の『Physical Review Letters』誌に掲載され、特に重要な論文としてEditors’ Suggestionに選ばれました。
- 2016年7月 物理学科の北本俊二教授、内山泰伸教授、ドミトリー?カングリヤン特任准教授、星野晶夫助教、斉藤新也博士研究員がチームメンバーとして開発し、2016年2月17日に打ち上げられた衛星「ひとみ」により、ペルセウス座銀河団を観測した結果(英国科学誌『Nature』掲載)がJAXAから記者発表されました。
- 2016年6月 上田恵介名誉教授(元生命理学科教授)が第19回山階芳麿賞を受賞しました。
- 2016年5月 理学研究科化学専攻の行本万里子さんが平成27年度笹川科学研究奨励賞を受賞しました。
- 2016年5月 生命理学科の岡敏彦教授、赤羽しおりPDらによる、「若年性パーキンソン病原因遺伝子産物(PINK1とParkin)によるミトコンドリア品質管理の調節機構の解明」が、米国科学誌『Molecular Cell』に掲載されました。
- 2016年5月 上田恵介名誉教授(元生命理学科教授)が自然環境の調査研究および普及啓発活動に対して平成28年度「みどりの日」自然環境功労者環境大臣表彰を受賞しました。
- 2016年2月 物理学科の原田知広教授がヨーロッパ物理学会責任編集の学術雑誌 『EPL(Europhysics Letters)』の “Distinguished referee”(卓越した査読者)に選出されました。
- 2016年2月 生命理学科の山田康之教授、生命理学専攻の濱島裕輝研究員らは、マリアナ海溝の底に生きる深海生物の酵素タンパク質の耐圧性のメカニズムを解明、科学雑誌『Extermophile』の電子版に掲載されました。
- 2016年1月 理学部特定課題研究員の田中啓太氏らの論文が雑誌『Current Biology』に掲載されました。
- 2016年1月 物理学専攻の池澤祥太さんが地球電磁気?地球惑星圏学会(SGEPSS)第138回講演会で学生発表賞を受賞しました。
- 2015年12月 物理学科の亀田真吾准教授と研究室の学部学生、大学院学生が開発に協力し、小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載された望遠カメラが、地球の撮影に成功しました。
- 2015年11月 物理学科の立花隆行助教が「2015年度日本陽電子科学会奨励賞」を受賞しました。
- 2015年11月物理学科の村田次郎教授の研究テーマ「高次元の世界」が科学雑誌『Newton』2016年1月号の巻頭特集として取り上げられました。
- 2015年11月 物理学科の村田次郎教授らの論文が学術誌『Classical and Quantum Gravity』のハイライト論文に選出されました。
- 2015年11月 NASA( アメリカ航空宇宙局)が、ロケットによる太陽X線観測を行ったFocusing Optics X-ray Solar Image(r FOXSI)チームの功績が、極めて顕著であると高く評価され、先端科学計測研究センターの齊藤新也PDがJAXAの3名の研究者と共に表彰されました。
c o l u m n
立教学院展示館?企画展 「理学部のこころみ─体感する理学展」
10月27日から12月17日、「サイエンスコミュニケーション実践」で制作した授業作品を中心に展示する企画展を開催しました。
①細胞を作り続ける「幹細胞」の仕組みを模型で体験する「開けて!並べて!幹細胞」 ②数学の定理にパズルで挑戦する「色で数学を体験しよう」 ③重力、電磁力など世の中の力を感覚的に理解できるようにしたパネル展示「4つの力」 ④レゴブロックで作ったDNA模型
①細胞を作り続ける「幹細胞」の仕組みを模型で体験する「開けて!並べて!幹細胞」 ②数学の定理にパズルで挑戦する「色で数学を体験しよう」 ③重力、電磁力など世の中の力を感覚的に理解できるようにしたパネル展示「4つの力」 ④レゴブロックで作ったDNA模型
アフリカツメガエルの複雑なゲノムを解読 脊椎動物への進化の原動力「全ゲノム重複」の謎に迫る
アフリカツメガエルの写真が『Nature』の表紙に取り上げられました
生命理学科の木下勉教授が参加している国際共同研究チームは、主要モデル生物の中で唯一、全ゲノム解読が行われていなかったアフリカツメガエルのゲノムを解読することに成功しました。
木下教授は、日本チームの一員として、アメリカチームがショットガン法により得た断片的な塩基配列情報を機械的に連結した情報を、FISH法とコンピュータ解析により、ゲノム全体にわたって手作業で確認、修正する作業を行いました。また、日本チームの中でも、8番染色体の構造解析、転写因子、シグナル分子をコードする遺伝子群の解析を担当しました。
この研究論文「異質四倍体であるアフリカツメガエルXenopus laevisのゲノム進化」は、英国科学誌『Nature』に2016年10月20日付にて掲載されました。
木下教授は、日本チームの一員として、アメリカチームがショットガン法により得た断片的な塩基配列情報を機械的に連結した情報を、FISH法とコンピュータ解析により、ゲノム全体にわたって手作業で確認、修正する作業を行いました。また、日本チームの中でも、8番染色体の構造解析、転写因子、シグナル分子をコードする遺伝子群の解析を担当しました。
この研究論文「異質四倍体であるアフリカツメガエルXenopus laevisのゲノム進化」は、英国科学誌『Nature』に2016年10月20日付にて掲載されました。
研究紹介
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。
※本記事は季刊「立教」239号(2017年1月発行)をもとに再構成したものです。定期購読のお申し込みはこちら
CATEGORY
このカテゴリの他の記事を見る
研究活動と教授陣
2024/12/20
今の努力が、新たな知の扉を開く——立教大学×高志高等学校
立教大学特別授業